音楽ダウンロード

2010年02月14日

となーす映画評「インビクタス 負けざる者たち」

私はてっきり、
イーストウッドの描く“不条理な暴力と個人との戦い”の映画は
『ミスティック・リバー』『硫黄島からの手紙』を経て、そして
『チェンジリング』の感動的なラストカットで終止符を打ったのだと思っていた。

違った。
まだ続きがあったのである。
それが新作『インビクタス 負けざる者たち』だ。

この映画は素晴らしい。
しかし、出来得ることなら上に挙げた三作品を観てから観ることをおすすめする。

『インビクタス 負けざる者たち』は、そのまま観ても良い映画、なのだが、
これ一本だけを観ると“説教臭い”と受け取られる可能性も大きい。

イーストウッドはこの何年かで自分が作ってきた映画を“踏まえた上で”この映画を作っている。これは間違いない。
そして、
その上で、私たちがこれまで映画で目にしたこともない“最上級の人間賛歌”を奏でてみせるのである。

何度もこのブログでは書いているが、
現在、最も偉大な映画作家、トップランナーは誰かといえば、これはもうぶっちぎりでクリント・イーストウッドただひとりなのである。
映画という芸術の質はイーストウッドが新作を撮る毎にだれも踏み入ったことのない高みに上っていく。
イーストウッドの新作は必ず観るべきだ、と私が言うのは、
映画芸術が更新されてゆく様を目のあたりに出来るなんて幸福は、まあ、そうそうないからだ。
彼の新作が見れる私たちは
本当に言葉では言い表わせないほど幸せな時代にいる。
(今、日本では年間3万人も自殺者がいると言うが、私には信じられない。こんな幸せな時代は、こと映画界においては2度と来ない。自殺なんかしてる場合じゃない。)


さて内容は、というと
南アで初の黒人大統領が生まれるところから映画は幕を開ける。

私は、このオープ二ングを見て、即座に、
『なるほど、“個人を襲う不条理な暴力”の集大成は、たしかに人種差別だ。』と思い、
そこから黒人大統領の苦難の歴史が描かれるのだな、
いつもの“イーストウッド節”が始まるんだな。
などと、映画通な“したり顔”で観始めたものだ。

しかし、これは“罠”であることがのちに判明する。

こちらの予測を見透したように、
次のシーンで、早朝、マンデラが護衛を連れてマラソンに出ると、怪しい車が後をつけてくる。

車がマンデラの傍を通過する。

機銃か何かで一斉に銃撃されるのか、と思いきや…。




映画が始まって早々の
この、イーストウッドの“罠”が実に良い。
今までのイーストウッド映画を踏まえた上での、「すかし」

そして、この映画は、ここから先、
今までのイーストウッドでは考えられぬやり方で男の戦いを描いていくのである。
これまでの彼の映画が、理不尽な運命という絵筆で世界を描いたものだとするならば、
この映画ではすべての瞬間を
「許し」と「愛」で世界を書き付ける。

政治犯として35年刑務所で服役していたネルソン・マンデラは、
言ってみれば理不尽な運命を戦いぬいた男。
銃撃も暴力もまったく通じない男なのだ。

そんな男の戦いを描くのに、脅迫や、銃撃戦などレべルが低い。

故にこの映画には脅迫も、銃撃戦も登場しない。

では
マンデラの戦いとはなんだろうか?

南アの弱小ラグビーチームをワールドカップで優勝に導くこと。
そして白人も黒人も一緒に一体となって自国チームを応援すること。
祖国がひとつになること。

と、まあ、こういう話なのである。


ワールド力ップの優勝決定戦が映画のクライマックスになるが、
試合終了前4分のスローモーションと
マンデラが獄中で過ごした35年。
この時間の対比が実に素晴らしい。

私は、
ひょっとしたらイーストウッドのこれが最後の作品かもしれない、とすら思っている。
彼は全てを描ききった。
これまで巨匠と言われた映画監督たちが言い残してきたこと、到達できなかったことをこの映画で全て成し遂げたように思う。

ラストカットは今回もまた素晴らしい。

このラストカットでマンデラが心で呟くセリフこそ、
上記の作品群を“踏まえ”なければ
その意味を味わいつくせぬ。

“不条理な苦難”こそが最高のときを与えてくれた。
そんなふうにも受け取れるところが最大のミソなのである。

この最高の栄光を与えてくれたことに対して、ではなく
自分の肉体の中に“負けざる魂”があったことを神に感謝して
映画は終わる。

クリント・イーストウッドの映画を観ること、
そして彼のメッセージを映画を通じて受け取れること、
メッセージを受け取れるだけの映画鑑賞眼を養えてこれたこと、
その全てに幸運と感謝を感じる。


今回も最高に至福の時間でした。ありがとう。


posted by となーす at 03:33| Comment(0) | TrackBack(1) | クリント・イーストウッド作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

インビクタス/負けざる者たち/Invictus(映画/試写会)
Excerpt: [インビクタス/負けざる者たち] ブログ村キーワードインビクタス/負けざる者たち(原題:Invictus)キャッチコピー:ひとつの願いが、ほんとうに世界を変えた物語。製作国:アメリカ製作...
Weblog: 映画を感じて考える〜大作、カルトムービー問わず映画批評
Tracked: 2010-02-14 17:51
最近のコメント