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2006年12月03日

となーす映画評「武士の一分」

監督 山田洋次
主演 木村拓哉
半年前からこの映画を観るのを楽しみにしてました。
山田の前作「隠し剣 鬼の爪」が素晴らしかったからですが、
最新作のこれも最高によかった。


時代劇三部作のうち、(前掲の「隠し剣」が二作目)一本目の「たそがれ清兵衛」において、山田は初の時代劇ということで気合を入れました。
その気合を入れてチャレンジしていたことのひとつが、「今の映画ファンと一体化する」ということでした。(これは映画を観て僕が勝手に思ったことです。山田が聞いたら「そんなことねえよ」っていわれるかも)
それゆえ「たそがれ清兵衛」では、いままでの山田とは全く相容れない表現や語り口が登場し、一応世間的には高い評価をうけはしたものの、それはただ単に奇をてらったいくつかの表現が、海外の批評家筋に新鮮に写っただけのこと、一本の映画としてみたならば、まさに暗闇のなかでやたらに刀を振り回す、みっともない作品でした。





実は、このみっともない(巨匠とは思えないほどの)試行錯誤を見ていて、当時、おや、と思った箇所がありました。

それは、いくつかの表現のなかに宮崎駿の影響が見られることでした。
代表的なのは、清兵衛に娘がいたこと。幼い娘の挙動のかわいらしさで観客の興味をひくなど、いままで山田はやったことがない。
ほかにもいくつかあるのですが、ここでは置くとして、とにかく「えっ、天下の山田が宮崎に影響をうけている!」と感じた衝撃はいまでも忘れません。そして「たそがれ清兵衛」という映画の記憶はその一点だけを残して、僕のお気に入り映画メモリーから削除されたのでした。

しかし、そのメッセージをどうやら受け取ったのが、宮崎駿本人だったのにはかなり仰天しました。

「ハウルの動く城」ですね。主人公を倍賞千恵子にやらせるなんてアイディアは山田の国民的シリーズ「男はつらいよ」と日本の映画ファンとの関係を抜きに出て来はしない。
新旧の国民的映画監督が交わった瞬間でした。

と同時に山田は「隠し剣」ですごいことやってのける。

そのすごいこととは何か
主演は永瀬正敏。
永瀬といえば渥美清がこの世を去ってから山田が作った映画のなかで一番の傑作!「息子」の主演男優。

このころ山田は渥美清に代わる自分の分身探しに躍起になっていました。「学校」シリーズの西田敏行がその代表格ですが、西田と山田の相性が悪いのは見ていて明らかで(物づくりの、ね)、二人のコンビで何本か作られた後、西田は監督違いの松竹のシリーズ「釣りバカ日誌」で魅力を激爆発させるのは皆さんご存知のとおり。
この試行錯誤のころ、出会ったのが永瀬正敏なのでした。
「息子」ご覧になりました?
永瀬正敏の芝居、絶品ですよ。
これ観た当時、山田映画の主演としてドンぴしゃりが現れて僕は、おそらく山田本人と同じくらい喜びました。
盲目の和久井映見に永瀬は恋をするのですが、永瀬の片思いぶりはまさに渥美そっくりなのですよ。挙動が?見た目が?そう挙動も見た目もさ!




ご存知のとおり「男はつらいよ」シリーズは毎回渥美清が女に恋をして振られる話です。ワンパターンの芸です。
ワンパターンの芸ですからスクリーンで起こることは毎回同じことなのに何故客が毎回訪れるのか。
日常生活で起こる小さな気付きや喜びの代弁者として、芸達者な俳優に全幅の信頼を置いているからです。
芸達者であるということはそういうことです。彼を見ると豊かになった気がする、と錯覚させられる。それを観に来ていい気分で帰るのです。
シリーズがまだ絶好調であった頃、みんな渥美清が大好きでした。渥美清の豊かさに触れてみんな豊かになれたのです。


長くなりましたけど、「隠し剣」で山田はどんなすごいことしたか。
「男はつらいよ」シリーズのストーリーをほぼまるごと時代劇に再現したのです。
そして主演は永瀬!
永瀬を主演に迎えて、山田は生き返る。
何十年も繰り返したストーリーだから、山田はズバリズバリとよいシーンを決めていく。
ここでも永瀬は普通の客には気づかれないくらい上手く山田の分身もしくは渥美の亡霊を演じる。
この二人のコラボは日本映画界屈指、といっても過言ではありません。
そして、この映画で山田は、渥美演じる車寅次郎では逆立ちしたってできなかったことをやってのける。
この力こそ永瀬正敏という俳優が山田に与えた最大のものでしょう。
「権力に立ち向かう」ことです。




「清兵衛」と「隠し剣」の両方をご覧になった方なら判ると思うが、どちらもクライマックスに決闘を置きながら、主人公が倒すべき敵、には変化が見られる。
たしか、清兵衛が討ちに行く相手は凶暴な殺人犯みたいな男で、清兵衛はこれを不本意ながらお上の命にて討ち取りに行く、のではなかったか。
に対して「隠し剣」の主人公は、どうか。赴くのは同様だが、
不本意な決闘(旧友との)の後、自分の意志で上級官僚の“暗殺”へと歩を進めるのだ。
権力に背を向け、愛する女との結婚を選ぶ、力強い男の姿を今だかつて山田映画で観たことがあっただろうか?
「隠し剣」のラストシーンでは、孤独な夫婦の困難な未来を暗示して、強目の風が吹いていた。山田映画の主人公たちは、身を寄り沿ってその風を受けとめる。
山田の映画がー歩前へ歩き出したのだ。山田映画のファンとしてこれほど感動したことはない。
山田頑張れ!山田は最高!
永瀬さんカッコいい!

長くなりましたが、このラストを受け、今回の「武士のー分」が登場するのです。
主演 木村拓哉、ですよ!
私には、見る前から傑作だとわかっていました。
posted by となーす at 17:25| Comment(1) | TrackBack(1) | 山田洋次作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
となーすさんからの手紙拝見させて頂きました。いいですね映画!私も山田がすきです。私が最近見た映画はチャーリーとチョコレート工場とカーズです。最近気になる映画は、硫黄島からの手紙です。となーすさんはどうですか?ハリウッド映画なのに日本語98%なんですって!となーすさんが今までで一番泣けた映画はなんですか?ちなみに私はライフ・イズ・ビューティフルです。これからもブログ頑張ってください。応援しています。
Posted by ピーチ at 2006年12月06日 01:00
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「武士の一分」木村拓哉
Excerpt: 下級武士を細かく描く作家は、藤沢周平と山本周五郎の2人と思っています。 最近の
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